森林資源を守りながらも、その一方で、楽器が関わる文化のレベルを保つためには、再生可能な森林資源を基にした新しい木質材料の開発が望まれる。本研究では、スギ一般材を原料として、ドイツトウヒあるいはブラジリアンローズウッドと同等の音響特性を有する木質材料を製造し、それを用いて試作したギタ-、バイオリンの音質を官能検査により評価する。 本年は、ギタ-裏板用ブラジリアンローズウッドの音響特性を明らかにした後、スギベニヤを原料としたギタ-裏板用材の製造方法について検討した。 ブラジリアンローズウッドの比重は、0.9前後で、木材の中では高い部類に属している。比重(γ)の増大に伴って弾性率(E)が増大することから、音響インピーダンス(γE)の大きい材料でもあるといえる。さらに、tanδは、繊維方向、繊維直交方向ともに木材の中では、もっとも小さい部類に属している。これは、メタノール抽出処理による音響特性変化の結果から、この樹種に豊富に含まれる心材成分の影響によることが明らかになった。 以上のことから、ギタ-裏板用木質系材料の製造にあたっては、圧密による高比重化とメタノール抽出成分と同様の音響的効果をもたらす低分子量フェノール樹脂の含浸処理が有用であると考えられた。そこで、スギベニヤに、低分子量フェノール樹脂(平均分子量約300)を含浸し、繊維方向を揃えて数枚積層後、ホットプレスにより熱圧締した。 圧密比の増大に伴って比重は直線的に増大した。比動的ヤング率(E/γ)は、繊維方向は圧密によってほとんど変化しなかったが、繊維直交方向では、圧密によって直線的に増大した。tanδは、樹脂濃度5%で処理した場合では、繊維方向、繊維直交方向ともに、圧密比が増大してもほとんど変化しなかった。一方、樹脂濃度の変化に対しては、繊維方向、繊維直交方向ともに、樹脂濃度の増大にともなってtanδは低下した。結果として、3%濃度の樹脂含浸ベニヤを圧密比2.5程度まで圧密すると、ブラジリアンローズウッドとほぼ等しい音響特性を有する材料を製造できることがわかった。
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