前年度に引き続き、イセエビの微少光に対する感知能力を行動学的方法で明らかにし、これまで推測の域を出なかった夜間の海中における行動と視覚の役割を解明する目的で以下の研究を行った。得られた成果を報告する。 1.イセエビ(Panulilus japonocus)の光の量に対する閾値を行動学的に明らかにした。 イセエビは、明期の明るさを3.3×10^21x、暗期を01xとした標準状態の水槽内で、明期に休止して暗期に行動する日周行動を示す。明期の下方向照度を段階的に下げてイセエビの対光行動を観察した。イセエビ(頭胸甲長8.2cm、体重315g♂)は、明期の下方向照度が6.8×10^<-8>1x以下では01xの場合と同様、日周行動の周期が崩れて約23時間になった。明期が5.2×10^<-3>1x以上では、日周行動は明暗の周期と完全に一致した。2.3×10^<-5>1xでは日周行動の周期が一時的に乱れたが、かろうじてこの明るさを感知した。以上より、イセエビが感知する下方向照度の下限値は2.3×10^<-5>1xと判断された。 2.イセエビの行動を抑制する夜間照度を明らかにした。 上記実験と同様、イセエビを標準状態で馴致した後暗期の下方向照度を段階的に高くして、日周行動を観察した。暗期が1.8×10^<-4>1xでイセエビの行動は著しく抑制された。イセエビの行動を抑制する暗期の下方向照度の下限値は1.8×10^<-4>1xと判断された。三重県志摩半島沖の海域では満月時に約15m深までこの明るさは広がり、日明かりによるイセエビの漁獲率の低下は、明るさの増加によってイセエビの行動量が低下するためであると推察された。
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