研究概要 |
イセエビの微少光に対する感知能力を行動学的方法で明らかし、夜間の海中における行動と視覚の役割を解明する目的で以下の研究を行った。まず、イセエビ(Panulilus japonocus)の行動を自動計測する2種の装置を作った。第1は、水槽内に吊るしたカゴの中にイセエビを放養し、パソコンにつないだ電子天秤で連続的にカゴの重さの変動を記録してイセエビの日周行動を計測する。第2は、イセエビをいれたカゴ支える3つの支点にかかる重さを同時測定してイセエビの重心位置を計算し、イセエビの動きを二次元的に追う装置で、イセエビの滞在位置の変化や移動距離あるいは移動速度を十分な精度で計測出来た。以下に、これらの装置を用いて得られた成果の概要を報告する。 1)イセエビの光の量に対する感度を明らかにした。イセエビは、明期の明るさを3.3×10^2lx、暗期を0lxとした標準状態の水槽内で、明期に休止し暗期に活動する日周行動を示し、一日の移動距離は2km以上に達する場合もあった。明期の下方向照度を段階的に下げてイセエビ(頭胸甲長8.2cm、体重315g,♂)の行動を観察した結果、2.3×10^<-5>lxでは日周行動の周期が一時的に乱れたが、かろうじてこの明るさ変化に同調する日周行動が測定された。イセエビが感知する下方向照度の下限値は2.3×10^<-5>lxと判断された。 2)イセエビの行動を制御する夜間照度の下限値を明らかにした。上記実験と同様、イセエビを標準状態で馴致した後暗期の下方向照度を段階的に高くして、日周行動を観察した。暗期が1.8×10^<-4>lxでイセエビの行動は著しく抑制された。イセエビの行動を抑制する暗期の下方向照度の下限値は1.8×10^<-4>lxと判断された。三重県志摩半島沖の海域では満月時に約15m深までこの明るさは広がると推算され、月夜の晩にイセエビの漁獲が低下する原因は、行動量の低下にもとずくことを明らかにした。
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