遊離態ビタミンB_<12>と特異的に結合する海水中のビタミンB_<12>結合物質について、その起源としての植物プランクトン及び細菌群の寄与、並びにB_<12>結合物質の赤潮藻類に対する生態学的役割を解析した。得られた結果は以下に総括される。 1.沿岸赤潮の原因種、H.akashiwo、S.costatum及びG.mikimotoiはいずれもB_<12>結合物質を生産し、後2者はその大部分を細胞内に保持したが、H.akashiwoは大部分を細胞外へ分泌することがわかった。H.akashiwoによるB_<12>結合物質の細胞外分泌量は培養時のB_<12>濃度が高いほど多くなり、最大35〜50ng B_<12>/1のB_<12>結合物質を分泌した。 2.B_<12>結合物質を生産する細胞群は、B_<12>要求種あるいは特定の分類属に限定されず、従属栄養細菌群の多く(約6割)がB_<12>結合物質生産能を有することがわかった。 3.H.akashiwoが生産したB_<12>結合物質の解離定数は52.8ng/l(結合定数2.6×10^<10>M^<-1>)であり、結合物質はB_<12>と高い親和性を持ち、しかもB_<12>要求性植物プランクトンに対して非特異的にその増殖を阻害した。 4.富栄養化した自然海水中では、微生物群による結合態B_<12>の分解とB_<12>結合物質の生産が並行的に進行し、結合態B_<12>の分解には主として細菌群が寄与し、植物プランクトン群の寄与はごくわずかであった。一方、B_<12>結合物質の生産には植物プランクトン群と細菌群の両者が寄与し、植物プランクトンの寄与率は細菌群の約2倍大きいことがわかった。 以上の結果、富栄養化した沿岸海水中において、B_<12>結合物質は微生物群によって生産・分解され、これらB_<12>結合物質はB_<12>要求性微生物の選択的増殖抑制やB_<12>要求種と非要求種の種間競争に重大な影響を与えていることが示唆された。
|