本研究では、量産技術に展開しうるような休眠卵形成の機構解明を目的として、休眠卵形成の二つのステージ、すなわち、両性生殖誘導と交尾現象に対象を絞って検討を行っている。以下に、これまでに得られた研究結果の概要を述べる。 1.両性生殖誘導機構 ワムシの抽出物や培養槽内から分離した細菌の添加が両性生殖誘導に対する効果を検討した結果、無菌下では両性生殖が誘導されにくいこと、添加する細菌株によっては両性生殖が無菌下に比べて5・10倍の頻度で誘導されること、逆に抑制する細菌株も存在することが明らかとなった。またワムシ抽出物の内、水溶性画分が両性生殖を誘導することも判明した。当初、活性のあった水溶性画分の分画をさらに進め、誘導物質を特定する作業の実施を目的としていたが、アッセイ試験の実施の際、同じ処理を繰り返し行った場合の、測定値のバラツキが大きく、信頼度の高いアッセイ法の確立に向けて研究を継続している。 2.交尾機構 形態と増殖特性が異なる本種の5株を材料とし、雌雄間の交尾頻度を株内と株間で求めると共に、株間の遺伝的変異の定量を行った結果、従来同種とされた本種のL型、S型間には生殖隔離が存在し、既報のアイソザイム分析、核型分析結果と併せると、別種と考えるべきことが分かった。また、新タイプと考えられていた熱帯産の超小型ワムシは従来のS型と同種であることも分かった。当初、目的とした実験は終了し、休眠卵形成を実施するためには複数の培養株を混ぜないことが重要で、これにより、交尾頻度を高め、効率的な休眠卵形成を行わせることができることが分った。
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