平成8年度に行われた研究はおもに、(1)3つのフィールド調査・実験、(2)水槽での行動学的実験、(3)漁獲・選択過程のシミュレーションによる研究に分かれる。 (1-1)深海かけ回し式底曳き網の網本体部・魚捕部の網目を開閉二つの状態として、操業実験で選択性を比較した。網目を閉じると、(a)エビ類の網本体部・魚捕部からの排除が減少し、(b)網全体の選択性は鈍くなった。これらにより「網目-選択体長管理図」を作成し漁業管理への実用化を図った。 (1-2)継続してきたかけ回し式沿岸小型底曳き網混獲投棄魚調査から、温帯・熱帯海域における多魚種漁業での混獲投棄の特徴を考究し、適切な投棄量推定法を提案した。この結果は1996年9月FAO混獲投棄量推定専門家会議で発表し、FAO漁業技術報告書として印刷中である。 (2)クルマエビを用いて、目合いと縮結の異なる網地に衝突した時の通過・残留率を求める実験を行い、幾何学的に求めた率と比較した。開状態の網目とエビの体最大断面の差が小さいときには、網目通過は幾何学的に体最大断面で支配されるが、エビが小さい時にはより通過しやすくなる機構を確認した。 (3-1)赤外線ビデオ装置を用いて撮影した網地への衝突・通過行動から、エビの網地への折り返し衝突による網目通過・残留確立のモデルを作成し、深海かけ回し式底曳き網の選択性発現機構の単純化モデルを作成した。この結果、1996年7月第2回世界水産会議で発表した。 (3-2)(2)で求めたエビの「1回衝突あたり網目通過率モデル」と、(3-1)の「繰り返し衝突モデル」を統合し、供試網の選択性をシミュレーションによって求めたところ、実験で得た選択性ときわめてよく一致した。現在、任意の網地構成・網目形状における選択性シミュレーションモデルを開発中である。
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