研究概要 |
赤潮形成プランクトンが産生する遊離脂肪酸は魚介類へい死の原因物質の一つとされているが、その生成機構は不明である。本研究の目的は、代表的な赤潮プランクトン(Heterosigma及びChattonella)を培養し、遊離脂肪酸の産生とリパーゼまたはホスホリパーゼA活性との関連を明らかにすることである。本年度は、Heterosigma akashiwoをf/2培地を用いて静置培養し、増殖期と定常期の試料から脂質を抽出し、遊離脂肪酸を定量するとともにトリグリセリドと極性脂質のクラス別組成を求めた。また、各脂質クラスの脂肪酸の詳細をキャピラリーGLCと逆相HPLCで求める方法を確立した。さらに、キラルHPLCを用いて、リパーゼ活性と基質特異性を同時に求める簡便な方法を開発した。その結果、以下の新たな知見を得た。 1.遊離脂肪酸は定常期に多く存在し、極性脂質(リン脂質、糖脂質)とともに主要な脂質成分であった。2.脂肪酸をピコリニルエステル誘導体に変換し、構造をGLC/MS分析により決定した。その結果、エイコサペンタエン酸(EPA)が主成分であることを認めた。また、モノエン酸(C16及びC18)が数種の位置異性体(△13,11,9,7,5)の混合物であることを明らかにした。3.EPAはトリグリセリドや極性脂質よりも遊離脂肪酸に多く存在した。ドコサヘキサエン酸(DHA)も少量検出された(全脂肪酸中2%)。4.EPAなどの高度不飽和脂肪酸は低温(5-10℃)で顕著に増加した。この傾向は、すでに報告した海産珪藻Phaeodactylum tricornutumの場合と同様であった。 今後、遊離脂肪酸産生に密接に関わると考えられる藻体中のリパーゼ及びホスホリパーゼA活性と基質の構造との関連を本年度確立した方法を用いて明らかにする予定である。
|