無機質はタンパク質、脂質、炭水化物、ビタミンとともに5大栄養素として知られており、食品中の重要な成分であり、身体に不可欠な無機質は必須元素と呼ばれている。特にわが国では老人の骨粗鬆症、およびそれに伴う骨折頻度の増加が、寝たきり老人や痴呆症につながることが多いことから、重要な社会問題となっている。これまで食品の栄養素についてはその含量に関心が持たれていたが、食品に含まれる栄養成分はすべてが吸収されるわけでなく、特に無機質ではその化学形態ならびに共存する促進および阻害物質により著しい影響をうける。わが国は海に囲まれているため、水産食品が重要な食糧資源となっており、これらの原料となる海産物は海水中の微量元素を蓄積し、また食物連鎖によって濃縮する機能を有する。無機質が栄養素として我々の体内に、より多く吸収されるには、水溶性であることが必要条件であるが、食品を調理加工することにより、どのように無機質が変化するかはあまり調べられていない。このようなことから、特に栄養学的に無機成分に富む藻類、貝類、甲殻類を試料として取り上げ、胃腸内を模倣した条件下での溶解性を調べることした。無機質の溶解性は各無機質により異なり、特に鉄では低いのに対し、全般的に亜鉛、カルシウム、ナトリウム、カリウムの順で高くなった。無機質の溶解性では、ペプシンやパンクレアチンのような消化酵素よりもpHにより大きな変化が見られた。そして溶解した無機質の多くは、限外濾過による分子量分布では低分子画分に、またイオン交換樹脂通過ではイオン形態をしていることが分かった。この様な研究成果は無機質の栄養学的な利用率の向上に役立つと考える。
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