研究概要 |
オホーツク海沿岸にけるホタテガイ増殖漁業の成功は,1980年代以降の200カイリ体制の定着に伴う遠洋・沖合漁業の縮小という厳しい漁業生産環境の下で,沿岸漁場の高度有効利用を実現させるとともに,ホタテガイの生産増大にともなってホタテガイ加工業の成長をもたらして地域経済に大きな役割を果たしてきた. このホタテガイ増殖漁業は稚貝段階から成貝段階まで人間の管理下に置かれている漁業としては新しい形態の漁業である.それゆえ,漁場管理・利用方式はそれまでの漁業にみられない輪栽式という方式がとられているが,これは漁業制度上共同漁業権に基づいておこなわれている.本研究ではまず第一にこの漁業の漁場管理・利用方式が現行の漁業権制度,とりわけ共同漁業権が想定しえなかった漁業であるが故に,今日の漁業権制度と若干の不整合をきたしている点を実証的に明らかにした. 次に,この漁業は集団的操業を前提としてなりたっており,実態調査事例としてとりあげた常呂,湧別,および紋別の各地区とも漁協の内部組織であるホタテ生産部会(ないしはホタテ増殖部会)という部会組織が事実上の経営体として機能している.ただ,この組織は,主として税制上の問題から、内部蓄積機能をもちえず,現在ではゴ-イング・コンサーンとしては不十分な段階にあるものの,一部の地区においては漁船の共同所有などのを通じて自立した経営体に成長しつつある.だが,その方向は地区ごとにおいて異なった方向を示しており,それは単なる発展速度の差異によるものではなく,むしろ地域の漁業生産構造に根ざしたものであることが明らかになった. 最後に,近年,生産物価格の低落によって,ホタテガイ増殖漁業の経営が悪化しつつあるが、生産物流通の側面から,当該漁業の現状を問題点が明らかになった.
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