本研究は、日本のアグリビジネスの海外直接投資による多国籍企業化の構造と論理を、開発途上国における農業開発との関連で解明することを目的とした。とくに北米企業の投資が先行する南米諸国のアグリビジネスと比較しながら、アジア太平洋地域のアグリビジネスの国際化の動向を解明した。 1.南米におけるアグリビジネスと農業開発;(1)南米ブラジルのオレンジ果汁産業は、多国籍企業の参入によって再編され、果汁貿易に移転価格機構が作用している。(2)チリのアグリビジネスは、多国籍企業化によって先進国技術を移転し、南北の季節差を活かしつつ、対先進国輸出農業を創出した。(3)開発の波から取り残されたパラグアイの農業は、二重性を拡大しつつあり、小農自立のための農業開発が課題となっている。 2.アジア太平洋地域におけるアグリビジネスと農業開発;(1)オーストラリアとニュージーランドの2カ国比較により、アジア市場への果実輸出システムの形成を、アグリビジネスと国家管理型機構(マーケティング・ボード及び園芸公社・AHC)との相互作用により解明した。(2)フィリピンのバナナ輸出産業は、資源利用の優位性を活用しながら、包括的農地改革法へ対応しつつ、分権化を指向し、小農の組織化を進展させた。(3)タイのエビ輸出産業は、日本水産資本の投資を軸に、集約的養殖を基礎としながら付加価値型発展(HVPs)をとげたが、マングローブ林等の環境保全との調和を課題としていること等、を解明した。 3.日本の農業・アグリビジネスの国際化;(1)急速な輸入野菜の増大に対する日本園芸農業の「製品差別化」的な対応生態を、高松市の事例によって解明した。(2)鳥取県産日本ナシの果実輸出技術の創出過程を分析し、積極的な国際化対応の論理を解明した。(3)食品製造業の海外直接投資を有価証券報告書から計量し、その決定的要因を分析する新しい研究領域を開発してきた。
|