山形県置賜平野の北東に位置する屋代郷低位泥炭地を実験地として本研究を進めた。この地区の面積は約950haであり、泥炭層の深さは深いところで約9mであり、最深部に位置する所には面積が約5.3haの残存湖(白竜湖)が存在する。この湖周辺の湿原は県の天然記念物として指定されている。現在この地区はほとんど水田として利用されているが、近年、営農の合理化のため、圃場の大型化、大型機械の導入のための乾田化の要求が強い。しかし、湿原保全と湿田の基盤整備は相矛盾するところが多い。 そこで本研究は以下のことを中心に検討した。 1)本地区の地盤沈下の実態調査。2)循環灌漑が低位泥炭地水田におよぼす影響。3)地盤沈下や水環境とも関連の深い白竜湖の面積の推移、4)道路荷重と泥炭の圧密について、5)土壌汚染と水質、6)泥炭地内の構造物の耐酸性 得られた結果を要約すると以下のようになる。 1)本地区は40年間で平均70cmの地盤の変動が確認された。この変動の主たる原因は地層部の消失によるものであった。2)この変動は北海道の場合と比較するときわめて少ないものであった。その理由は、この地区は閉鎖系であり、末端部に水門を設け系内の水位を常に一定に保っているからである。さらに、灌漑期には水門を閉じ循環灌漑を行っているためである。このような水管理と対応して白竜湖の面積の縮小速度も著しく遅くなってきた。3)道路荷重により泥炭は圧密されるが、泥炭の透水係数は水田の1/10〜1/15に低下することがわかった。4)かつて指摘された重金属汚染、水質については現在は問題はない。地区内構造物の酸化の問題も水質調査の結果から問題はないことが明らかとなった。 この結果は、湿原の保全と周辺地区の開発との両立に示唆を与えるものである。
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