水利構造物の基礎地盤の動特性について、まず前年度現場で実施した弾性波実験結果を解析したところ、P波速度は含水状態の影響を受け、飽和状態で深さに比例して増加することが明らかになった。また、S波速度の深さ分布は含水状態によらず、ほぼ深さの1/4乗に比例して増加しており、一方、既往のア-スダムの弾性波実験の結果を整理したところ、P波速度分布は地盤のそれと同様であったが、S波速度分布は深さの1/3乗に比例し、一般に地震動がS波と密接に関連していることを考慮すれば、地震時における構造物〜地盤の振動モードが異なることが明らかになった。 次に、現場から珪藻土質泥岩のサンプルを採取し、室内で微少ひずみレベルにおける静的・動的な実験を行った結果、成層方向と成層直交方向で力学的異方性がみられた。すなわち、10^<-5>以下のひずみレベルにおいては、成層方向のヤング率は成層直交方向のそれの約1.4倍であったが、10^<-4>〜10^<-3>のひずみレベルにおいては、その比が約2〜3倍になった。従って、ひずみレベルの増加によるヤング率の減少割合は、成層直交方向の方が顕著であり、先ほどの議論と同様、地震時における地盤の材料非線形性を考慮する必要性が明らかになった。 また、前年度現場で実施した常時微動観測結果より、ダムサイトにおける地盤の卓越周期は約1秒であり、先ほどのS波速度との結果とあわせて解析を実施したところ、振動系の基盤深さは約140mであると推定された。 最後に、当該地点における設計地震加速度を歴史地震史料により推定した結果、再現期間100年における地表水平最大加速度は約160galであり、現在の耐震基準とほぼ同様であったが、将来にわたり起こりうる上限加速度は約450galとなり、この値まで含めた耐震信頼性設計を実施する必要性を明らかにした。
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