研究概要 |
底泥の流送・堆積過程に関する現地観測,室内実験および数値実験により,以下の知見を得た。まず,現地観測に関しては,長崎県諫早湾で濃度及び流速の鉛直プロファイルの計測を行った。その結果,上げ潮時と下げ潮時では,底面剪断応力のパターンが異なり,これが浮遊底泥の輸送と堆積に重要な役割を演じているとの示唆を得た。また,円形回流水槽及び循環型直線水路で,高含水状態および低含水状態の現地採取底泥を対象に室内実験を行った。その結果,高含水状態の底泥の巻き上げ後の挙動は,従来言われている開水路の組織的乱流構造との密接な関係を持つこと,巻き挙げられるとその表層構造が変化し巻き上げは長時間持続しないこと,底泥表層部の降状値と底面剪断応力の間に定量的な関係が見られることが明らかになった。一方,低含水状態の底泥は従来から比較的多く対象とされている高含水状態の底泥で得られた巻き上げに関する知見とは異なる挙動を示すことが明らかになった。数値計算に関しては、有明海を計算対象として,粘着性微細底泥の巻き上げ,流送,沈降,堆積のアルゴリズムを組み込んだプログラムを完成させた。 粘着性微細底泥の流送・堆積過程には様々な要因が関与していると考えられる。すなわち,巨視的にみれば河川固有流,潮汐及び潮汐に起因する潮流,波など,微視的に見れば流体の粘性,密度,水温,底泥の粘度分布,含水比,コンシステンシー限界,降伏値,凝集性等々,である。一方,これを底泥粒子の運動のダイナミックスの点で捉えると,河川起源の浮遊砂の移流,分散,沈降,堆積,堆積後の再巻き上げ及び堆積後の圧密に集約できる。このように,極めて多くの要素が関連する複雑な過程を経て干潟は形成されることになる。粘着性微細底泥の巻き上げ,流送,沈降,堆積のアルゴリズムを組み込んだプログラムの開発にはこれらの素過程の詳細を組み込むことが必要であるが,現時点では個々の素過程の定量的評価が充分でないため,現地観測や室内実験によってこれを補完していきたい。
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