現在、乾燥地域においては大規模灌漑農業が行われている。その一方では土壌の塩害化により広大な農耕地の放棄が進んでいる。このような塩害化した農耕地での作物栽培を可能にするには、塩生植物の活用しか方法が見いだせないのが現状である。しかし、その基礎的研究は緒についたばかりである。塩環境下においても成育の良い(アッケシソウ)Salicornia europaea L.を用い、塩環境下での成育と植物の生理的応答の機構について検討した。 1).検討項目:生育期間における表皮細胞のNaCl溶液に対する原形質分離濃度の推移、無機イオン濃度と表皮細胞のNaCl溶液に対する応答を他の植物と比較、高濃度NaCl溶液に対する表皮細胞の反応を低濃度NaCl条件下(MS培地)で生育させたものと比較検討した。 2).結果:自生アッケシソウの茎の表皮細胞のNaCl溶液に対する限界原形質分離濃度は、生育期間中に1.6%〜2.2%に上昇した。生育終期のアッケシソウ植物体内の主な無機イオンは、Na^+イオン63mMとCl^-イオン107mMであった。MS培地で生育した植物の表皮細胞は、自生アッケシソウの表皮細胞の約2倍の大きさに、一方浸透圧は35%〜50%低い値を示した。MS培地で生育した植物の表皮細胞におけるNaCl溶液に対する限界原形質分離濃度は、自生のアッケシソウとほぼ同じであった。高濃度のNaCl溶液に浸漬すると、同処理の自生アッケシソウの表皮細胞に比べ、過度の原形質分離を生じた。これらの結果から、自生アッケシソウの表皮細胞は、生育過程においてNaClを植物体内に蓄積し、細胞内の浸透圧調節に役立てていることが推察される。
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