組織培養技術を用いた苗生産の効率化のために、培養器内の環境調節や順化過程の促進の問題が注目されている。このため、培養器の環境条件と培養組織の増殖や器官分化に伴う光合成機能の変化との関係を明らかにする必要があるが、従来の同化箱方式の光合成測定法では、わずかな光合成機能の変化や分化した各器官の機能の解析には限界があった。このため、クロロフィル蛍光誘導期現象を画像計測することにより、わずかな光合成機能の変化や分化した各器官の機能を診断する手法について検討した。ニンジンのカルスを用いた実験では、外見状緑色でないにもかかわらず、蛍光強度の経時変化に差が認められた。これは、カルスにおけるクロロフィルaの形成とかかわっているが、カルスの蛍光誘導期現象は、成熟葉でみられたものとは異なり、独立栄養状態にはないことを示した。また、土壌に移植可能な状態にまで生育した苗では、完全な成熟葉でみられる典型的な誘導期現象に近い経時変化を示し、光独立栄養状態に移行していることがわかった。また、光独立栄養状態に移行する過程の幼苗では、その成長に伴って、Pの長時間側への移行とDP変化の増大、およびSとMの肩の増大などがみられた。しかし、幼苗時には、いずれにしても、光合成器官の発達は不十分で、光独立栄養状態にあるといっても、DP変化や、S、Mの肩が小さく、二酸化炭素の吸収でみた光合成速度も小さいと診断された。
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