家畜の心拍数、呼吸数、直腸温、皮膚温などの生理諸元と、顎運動回数、顎運動休止回数、姿勢、歩数、乗駕行動などの行動情報を同時記録し、放牧家畜の生理・生態現象を定量化し、放牧家畜の生産システムを総合的に検討しようとしている。平成6年は、上記パラメータのうち、暑熱時の放牧家畜の生理諸元として、重要な直腸温、膣温、皮膚温、腹帯上部5cmの気温、心拍数、呼吸数さらに食草行動と反芻行動の指標となる顎運動回数と顎運動休止回数を同時記録する家畜携帯型の小型の電子記録装置を考案した。この装置を茨城県にある東京大学農学部附属牧場繁養の乳牛に装着させ、7月下旬から8月上旬に放牧生態の調査を行った。この研究では直腸温と膣温の両方を記録したが、直腸温は膣温に比べて0〜0.5℃高い値を示した。膣温は直腸温に比べてセンサーの装着が容易であるので雌牛では直腸温に代わって膣温も利用できるものと考えられた。またこの計測システムにより家畜の暑熱反応の指標に重要な各種体温、呼吸数、心拍数と暑熱時に直接影響を受けるとされている食草行動と反芻行動の相互関係が24時間にわたり検証できた。さらに腹帯上部5cm温と外気温から、家畜が昼間に直射を避け日陰に入り休息しているか、再び日向に戻って食草を開始したか推測できた。この装置は暑熱時の放牧生理、生態の研究に利用できるものと思われた。また同様の実験を7月下旬の暑熱時と9月中旬に実施し、両者を比較すると7月下旬の食草行動と反芻行動は昼間では少なく、しかも1日当たりの食草、反芻時間は半減した。さらに食草および反芻活動の指標となる1分間当たりの顎運動回数は9月中旬に比べて7月下旬では少なく、顎運動回数においても暑熱の影響が観察された。
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