家畜の生理生態記録法として肉眼観察やテレメトリー法が行われてきたが、昼夜を問わず広い放牧地で各種の行動を長時間定量化することは困難である。そこで、家畜装着型の小型電子記録装置(データロガ)を用いて広い放牧地を自由に動き回る家畜の多数の生理生態情報を無拘束状態で、同時記録するポリグラフィー測定法を開発した。測定可能なパラメータは食草行動と反芻行動を自動測定する1分間当たりの顎運動回数と顎運動休止回数(顎運動が3秒以上休止する回数)、心拍数、姿勢(横臥、佇立)、歩数、飲水行動、呼吸数、心拍数、直腸温、皮膚温、膣温、腹帯上部5cm温、外気温などである。 そのシステムを応用して高冷地の八ケ岳の放牧地と平地温暖な茨城県にある東大農学部附属牧場で放牧されている乳牛の放牧生態の季節変化を調査し、比較検討した。高冷地である八ケ岳の牧場の24時間の食草、反芻行動の出現パターンは春、夏、秋ともほぼ同様の傾向が見られ、食草時間は3季ともほぼ等しく、反芻時間は春、秋に比べて夏季で増加した。1日当たりの移動距離は夏季(3.1Km)に比べて、秋季(4.3Km)で増加した。この原因として、秋季の可食草量の減少が考えられた。 一方、茨城の牧場では7月下旬の暑熱時の食草行動と反芻行動は昼間に少なく、しかも1日当たりの食草、反芻時間は春、秋季に比べて半減した。さらに食草および反芻活動の指標となる1分間当たりの顎運動回数は7月下旬では少なく、顎運動回数においても暑熱の影響が観察され、高冷地の成績と著しく相違した。本研究によって夏季放牧時の家畜生態に及ぼす暑熱ストレスの影響の実態が把握でき、また温暖地での夏季暑熱時の家畜増体低下の原因の一端が考察できた。
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