本研究は、家畜および実験動物の未受精卵子の超低温保存が染色体に与える影響について明らかにすべく計画された。 平成6年度においては、マウス未受精卵子を用いて研究を行った。この際、当研究室で飼養している転座染色体をホモに有するマウスを精子提供用マウスとして用い、受精時の第1分割期において卵子由来の染色体グループと精子由来の染色体グループを明確に識別し、超低温保存が未受精卵子の染色体に与える影響について詳細に検討した。その結果、耐凍剤のDMSO(Dimethylsulphoxide)は、卵子染色体の構造的異常を引き起こす可能性が高いこと、Propylene glycolは耐凍剤としての効果は低いが、染色体の構造的異常を引き起こす可能性が低いこと、また、凍結融解操作という物理的な障害によっても卵子染色体の構造的異常が引き起こされることが明らかとなった。 平成7年度では、牛未受精卵子の超低温保存を種々の方法を用いて検討したところ、DMSOとPropylene glycolの混合使用がDMSOやPropylene glycolの単一使用より適していることが明らかになった。次に、超低温保存後に融解した牛未受精卵子を通常の体外受精に用いている精液によって体外受精させたところ、受精率(2細胞への分割率:16〜32%)および胚盤胞への発生率(0〜5%)は、凍結融解を行わない新鮮卵子に比べて有意に低いものであった。さらに、体外受精後、第1分割期の染色体を観察し、超低温保存の卵子染色体への影響について追求すべく実験を行ったところ、多倍体の発生率は、顕著な差ではないものの凍結融解卵子において高いという結果であった。また、DMSOとPropylene glycolの混合使用により凍結融解した卵子において、構造的異常の染色体が観察されたが統計的に有意ではなかった。
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