ニワトリにおいて中鎖トリグリセリド(MCT)は飼料脂質源として長鎖トリグリセリド(LCT)より優れる点を有するものの、相反する効果として飼料摂取量を低下させる。このMCTによる飼料摂取量の低下が如何なる機構により引き起こされるかを解明し、飼料摂取量を改善するような対策を施せば、現在の食肉事情に適した高蛋白質で低脂肪という高品質の食肉を効率よく産生できるものと確信している。しかしながら現時点ではMCTによる飼料摂取量の低下の一因がそ嚢における飼料の滞留によるものであり、それがどのような機構で起こり、またそれがどの消化管部位の運動抑制によるものかが明確にされていない。本年度の研究では、何故トリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素鎖長の違いにより消化管運動に変化が起こるのかについて、特に消化管ホルモンの1つであるガストリンおよびそれにより分泌が促される胃酸の関与を調査した。プロトンポンプの阻害剤であるオメプラゾールを投与すると血中のガストリン濃度が上昇すると共に飼料の通過が遅延することが知られている。またMCTによっても血中ガストリン濃度は上昇する。そこで本実験はMCTによる飼料の遅延が血中ガストリン濃度の上昇によるもののかを確かめた。まずオメプラゾールの投与により血中のガストリンプールを予め高めておいた場合に、LCT飼料の飼料通過速度はMCT飼料と同程度まで遅延した。これがガストリン濃度の上昇によるものなのかあるいは胃酸分泌の低下によるものなのかを明らかにするために鳥類ガストリンを外因的に投与したところ薬理学的濃度のガストリン投与では飼料の通過速度は遅延したが、生理学的濃度では効果はなかった。胃酸の関与についてはオメプラゾール処理したものに塩酸を投与することで飼料の通過速度が速くなった。以上のことよりMCTによる飼料通過速度の遅延はガストリン以外の因子で制御されていると推察された。
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