本研究は、鶏精子の運動運動調節機構を明らかにする目的のため、特にタンパク質のリン酸化-脱リン酸化に着目して実験を行ったものである。 40℃で鶏精子が不動化を起こす原因として、30℃の場合よりプロテインホスファターゼ活性が高まっているか、あるいは逆にプロテインキナーゼ活性が低下しているかのどちらかが推測される。いずれにしても、鶏精子の運動に関与しているキナーゼとホスファターゼ活性のバランスを考えた場合、40℃ではホスファターゼ活性がキナーゼ活性を上回っていると考えられる。もしこの推論が正しいなら、プロテインホスファターゼの酵素活性を阻害すれば、40℃で不動化を起こしている精子の調節タンパク質の脱リン酸化が抑制され、その結果、精子は活発な運動を行うはずである。この点を追究したところ、予想したとおりプロテインホスファターゼ活性のうち、タイプ1(PP1)とタイプ2Aを特異的に阻害するオカダ酸とカリクリンAを除膜モデル精子に添加すると、40℃でも運動停止は起こらず、活発に運動するのが認められた。PP1のみを阻害できるインヒビター1及びインヒビター2を加えても同様の結果が得られた。イムノブロッティングによりPP1抗体を反応させると、36〜37kDaに特異的なバンドが検出され、これはPP1の分子量と一致した。 以上の結果から、鶏精子内にはセリン/スレオニンホスファターゼの一種であるPP1が存在しており、この酵素活性が高まると、40℃で不動化を引き起こすと考えられる。
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