本研究は、鶏精子の運動運動調節機構を明らかにする目的のため、特にカルシウムとその関連物質並びにタンパク質のリン酸化-脱リン酸化に着目して実験を行ったものである。 まず、精子の運動性に及ぼす細胞内Ca^<2+>の影響を検討した。40℃で不動化を起こしている正常精子にCa^<2+>を添加すると、運動は再開した。BAPTA-AMで細胞内のCA^<2+>をキレートすると、精子の運動は停止し、過剰のCa^<2+>を加えることによって回復した。一方、カルモデュリン阻害剤であるW-7やトリフルオペラジンを添加すると、Ca^<2+>が存在するにもかかわらず、運動は完全に抑制された。 次に、精子の運動性に及ぼすプロテインホスファターゼ阻害剤の影響を検討した。プロテインホスファターゼのうちタイプ(PP1)とタイプ2Aを特異的に阻害するオカダ酸とカリクリンAを除膜モデル精子に添加すると、40℃でも運動停止は起こらず、活発に運動するのが認められた。PP1のみを阻害できるインヒビター1及びインヒビター2を加えても同様の結果が得られた。イムノブロッティングによりPP1抗体を反応させると、36〜37kDaに特異的なバンドが検出され、これはPP1の分子量と一致した。 以上の結果から、鶏精子の運動調節系にはcAMPよりも、むしろCa^<2+>/カルモデュリンが重要な役割を果たしていること、さらに精子内にはセリン/スレオニンホスファターゼの一種であるPP1が存在しており、この酵素活性が高まると不動化を引き起こすと考えられた。
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