タイレリア原虫は赤血球内寄生ステージにおいて表面にアクチン結合性を有する蛋白質(p32)を発現しており、この蛋白質が原虫の赤血球内への侵入や細胞内増殖に重要な役割を果たしていると考えられる。 まず、バキュロウイルス系を用いてシグナルペプチド配列を欠損したp32遺伝子を昆虫細胞に発現させた。この発現産物はゴルジ体を経て細胞表面に移行する活性はなく、細胞質に大量に蓄積されていることが明らかにされた。二重蛍光標識法では、アクチンフィラメントに沿ってp32が発現していることが確認できた。 次に、原虫表面分子と赤血球表面分子との相互作用を解析するため、赤血球に発現されている各種糖脂質を組み込んだリポソームを作製し、原虫体との凝集反応を調べた。その結果、I-activeガングリオシドを組み込んだリポソームを原虫が特異的に凝集することが明らかになった。また、末端シアル酸構造をアセチル型からグライコリル型に変換したところ、凝集活性が上昇した。このことから、原虫表面分子が牛赤血球表面糖脂質であるI-activeガングリオシド(NeuGc)をレセプターとして利用していることが示唆された。 さらに、原虫表面リガンドを同定する目的で、原虫を赤血球から精製し、その表面蛋白質を^<125>Iで標識後可溶化し、赤血球と結合する蛋白質を同定した。その結果、p32以外にも分子量約20キロダルトンの蛋白質が検出されたことから、これらの表面蛋白質が赤血球レセプターに結合する活性を有し、赤血球への接着・侵入の段階で重要な機能を担っていると考えられた。しかし、これら原虫表面蛋白質が前述の糖脂質に結合するか否かについての結論は当研究では得られなかった。
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