A型インフルエンザウイルスの宿主細胞レセプターは末端にシアル酸をもつ糖鎖である。一般にカモおよびウマのインフルエンザウイルスはシアル酸がガラクトースにα2-3結合している糖鎖(SAα2-3Gal)に親和性がありヒトのインフルエンザウイルスはSAα2-6Galに親和性がある。本年度の研究においてカモの腸管およびウマの気管上皮細胞上にはSAα2-3Galが優位に存在することが明らかとなった。このことは1989年に中国でカモのインフルエンザウイルスが直接ウマに導入されたというGuoらの報告を裏付けている。一方、ブタの気管上皮細胞上にはSAα2-6GalおよびSAα2-3Galの両方が存在することが明らかとなった。このことはブタの呼吸器がヒト由来ウイルスとカモ由来ウイルスの両方に感受性を示すという喜田らの感染実験の成績を裏付けている。またヒトの新型ウイルスの出現においてブタがカモのウイルスとヒトのウイルスとの遺伝子再集合体産生の場であるという喜田らの提案を支持する。以上の成績から宿主の標的細胞表面の糖鎖構造がインフルエンザウイルスの宿主域を決定する因子であると考えられた。しかしながら、SAα2-3Galに結合するウイルスのすべてがカモの腸管で増殖する訳ではないこともまた明らかとなった。一方、異なる宿主の標的細胞上にはインフルエンザウイルスに対する吸着インヒビターが存在することが明らかとなった。現在、その分離精製を実施している。しかし、ウイルスの感染性を中和するインヒビターの存在の可能性は現段階では少ない。異なる宿主由来のウイルスのHAのアミノ酸配列およびレセプター特異性の比較解析も終了し、感染実験に用いる候補のウイルスを選択することができた。これらの成績を踏まえて平成7年度はインフルエンザウイルスのカモの腸管増殖を規定する因子を中心に解析し、ウイルスの異動物種間伝播のメカニズムを明らかにしたい。
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