研究概要 |
インフルエンザウイルスは人の他に多くの鳥類および哺乳動物に感染する。ニワトリ、ウマ、ブタ、ミンク、アザラシ等に致死的な流行を起こし、その被害は甚大である。最近、これらのインフルエンザウイルスの遺伝子はすべて野生水禽のウイルスに由来することが明らかとなった。また、渡りガモのウイルスが中国南部でアヒルを介してブタに伝播し、ブタの呼吸器でヒトのウイルスと遺伝子再集合体を形成することによってヒトに導入されたという新型ウイルスの出現機構が明らかにされた。しかし、ウイルスが異なる動物種間を伝播するメカニズムが解明されていない。我々はインフルエンザウイルスの宿主域とレセプター特異性が関連する成績を得た。本研究はレセプター特異性を分子レベルで解析することにより、インフルエンザウイルスの異動物種間伝播のメカニズムを明らかにすることを目的として企画された。 まずインフルエンザウイルスの代表的な宿主であるカモ、ウマおよびブタの標的細胞表面のレセプターの糖鎖構造をシアル酸の結合様式の違いを認識するレクチンを用いて解析した。これにより、ウイルスのレセプター結合特異性と宿主細胞表面の糖鎖構造が宿主域を決定する重要な要因であることを証明した。一方、シアル酸の分子種の違い(Neu5Ac,Neu5Gc等)を認識する特異抗体を用いて、N-グリコリル型シアル酸(Neu5Gc)の分布がカモのウイルスの腸管での増殖部位と相関する成績を得た。さらに、このNeu5Gcを認識するヒト由来ウイルス変異株のヘマグルチニンを持ち、他の遺伝子は全てカモのウイルス由来である遺伝子再集合体を得た。このウイルスがカモの腸管で増殖するか否かを現在検討中である。これによりインフルエンザウイルスのカモの腸管における増殖に関わる因子が明らかになるであろう。また、この研究過程で各種動物由来赤血球を用いた凝集試験により、インフルエンザウイルスのレセプター特異性を調べる簡便法を確立した。古くから知られるこのインフルエンザウイルスの血球凝集の機構をウイルスのレセプター結合特異性と血球表面に存在する糖鎖構造という観点から究明することが出来た。 今後はヘマグルチニン以外のウイルス構成蛋白に関してインフルエンザウイルスの宿主域に関わる因子を明らかにし、インフルエンザウイルスの異動物種間伝播のメカニズムをさらに解明したい。
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