平成8年度は、Push-Pullカニューレを用いて視床下部からのCRHおよびAVP分泌量を直接測定し、甲状腺機能低下ラットにおける視床下部・下垂体機能を神経内分泌学的に検討した。実験では、成熟雄ラットに4-メチル-2-チオウラシル(チオウラシル)を飲水投与することにより甲状腺機能低下ラットを作出した。 1.CRH及びAVPに対する下垂体のACTH分泌反応性の変化 甲状腺機能低下ラット下垂体のACTH分泌反応性を調べる目的でCRH(1μgと10μg)とAVP(0.1μgと1μg)を静脈内投与し、その後の血中ACTH濃度の変化を調べた。その結果、甲状腺機能低下ラットでは、CRHとAVPのいずれを投与した場合にも対照群に比較して下垂体のACTH分泌反応性が上昇している事実が判明した。 2.視床下部からのCRHおよびAVP分泌量の変化 視床下部からのCRHとAVPの分泌量の変化を調べる目的で、正中隆起部にPull-Pullカニューレを装着し、18:30〜21:30hの間1分間に15μlの流速で人工脊椎液を還流し、20分こどに還流液を採集し、CRHとAVP濃度を測定した。その結果、甲状腺機能低下ラットでは、CRH、AVP共に分泌量が対照群に比べて多く、視床下部からのCRHとAVP分泌が亢進している事実を初めて明らかにした。 以上の結果から、甲状腺機能低下時における卵巣機能の低下には、「視床下部からのCRH分泌低下→LHRH分泌低下→下垂体からのLHとFSH分泌低下、その結果として卵巣機能が抑制される」とする当初の仮説が実証された。また、AVPの分泌も亢進する事実が判明したが卵巣機能抑制との関連性は現在のところ不明である。
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