研究概要 |
人のI型糖尿病のモデル動物であるマウスのストレフトソトシン(SZ)少量頻回投与によって誘導される糖尿病では,その発症に細胞間接着分子(ICAM-1)とリンパ球機能関連抗原(LFA-1)の発現が重要である事を示唆した。しかしこのモデルでは,膵島部での炎症という点では,人への外挿が可能であるが,より人病態にちかいモデルとして,またSZで得られた成績が普遍性があるかについて,I型糖尿病の引き金の一つであると考えられるレオウイルス2型誘導糖尿病モデルマウスについて,接着分子の役割を調べた。レオウイルス感染を受けた乳呑みマウスは,膵でのウイルス増殖のピークすなわち,膵島でのウイルス増殖による直接破壊によっては,血糖値の上昇もなく,膵島病変も軽微である。その後膵からのウイルス消失後に遅れて,多形核〜単核白血球の浸潤がみられ,この結果膵島破壊が高度になり,血糖値の上昇や,血液中のインスリン値は低値を示すようになる。膵島内外に白血球浸潤が生じる前に,抗ICAM-1と抗LFA-1モノクローナル抗体の処置により,用量依存性に膵島炎発現や糖尿病発症が抑制された。さらに膵島内外の毛細血管にはICAM-1が,浸潤白血球にはLFA-1が発現すること,白血球膜上にこれらの分子が発現してはじめて膵島炎が生じる事が明らかとなった。 以上のことから,本接着分子の発現は(1)免疫担当細胞間における抗原認識のcostimulatory因子として働くこと(2)浸潤という局面で白血球と血管内皮との接着に関与すること,(3)標的細胞(膵B細胞)と細胞傷害性白血球の相互作用に関与することが示唆された。本分子がこれまで他の様々な自己免疫疾患で示唆されているように,本分子処置により膵B細胞抗原に対するclonal anergyが生じているとすれば,人でもマウスモノクローナル抗体のFab部分と人のFc部分を結合したキメラ抗体を用いる一型糖尿病の発生抑制の治療への可能性がある。
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