昼行性や夜行性を問わず動物の松果体から分泌されるメラトニンは、夜間に増加し日中に減少する顕著な日内リズムを示す。この松果体のメラトニン合成の経時的な変化は生物時計によって作り出されるが、一方では、光の直接抑制支配を受けている。例えば、夜間に光パルスを照射すると、メラトニンの急激な減少を来す。この光パルスによるメラトニン抑制効果には光パルス照射時間によって差があることが知られていたが、その理由については未だ明らかでない。そこで、光を感受する機構、時計機構及びメラトニン合成機構すべてを具備している鳥の松果体細胞を用いてこの原因を究明した。 まず夜間のメラトニン合成がどの様なタイムスケジュールで合成されているかを3時間間隔で測定した結果、暗期開始から急激に増加することが判明した。また、光パルスによるメラトニン抑制効果がパルス照射時刻に依存し、特に暗期後半にはその効果がほとんどないことが確認された。次に、夜間のメラトニン合成に必要と思われる蛋白質合成及びRNA合成のタイムスケジュールをそれぞれの特異的阻害剤を用いて検討したところ、メラトニンの暗期開始後の旺盛な分泌増加は、明期の後半にすでに時計によってメラトニン合成に必要なRNA合成や蛋白質合成が開始されているためであることが判明し、また暗期後半に光による抑制がみられないのはメラトニン合成に必要なRNA合成はすでに終了しているためであることが判明した。次にこの様なメラトニン合成系や光受容系が孵化以前のどの時期から発達してくるかについて、鶏の種々異なる日齢の胚時から松果体を取り出し、培養下でメラトニン分泌を調べた。その結果、孵化前7、8日齢の松果体は明暗に同調したメラトニン分泌リズムを有することが判明し、また光条件を変化させても新たな条件に同調することが判明した。 以上の結果、鳥類の松果体のメラトニン合成は光受容系とともに孵化以前に完成されており、すでに明暗に同調して分泌されているものと推測できる。さらに孵化後、ヒヨコの松果体においては時計機構がより一義的にメラトニン合成系に関与してくるものと推察される。
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