研究概要 |
我々は,SCIDマウスの末梢循環赤血球をウシのそれで置き換えることに成功し、このBo-RBC-SCIDマウスをウシの代替動物として使用したタイレリア原虫の感染実験モデルを開発した。このモデルでは、赤内型(メロゾイト)ステージの原虫増殖を再現できるのみで、赤外型(シゾント)ステージの原虫増殖の再現には未だ成功していない。本研究では、まず、Bo-RBC-SCIDマウスをタイレリア原虫感染ダニに吸血させる方法およびダニ唾液腺から得たスポロゾイトをマウスの腹腔内あるいは皮下に接種する方法で感染実験を試みたが、末梢循環のウシ赤血球への原虫寄生は認められず、スポロゾイト→シゾント→メロゾイトの原虫増殖はBo-RBC-SCIDマウスでは起きないことが確認された。そこで次に,SCIDマウスの皮下にウシのリンパ節を移植し、これにスポロゾイトの接種およびウシ赤血球の連続輸血を行ったが、やはり原虫寄生ウシ赤血球は出現しなかった。そこでさらに、スポロゾイトをウシのリンパ節(左右の浅頚および腸骨下リンパ節、計4コ)に直接接種し、4、6、7および8日後にこれらのリンパ節のうち一つずつを取り出し、それらを各々2匹のBo-RBC-SCIDマウスの皮下に移植し、末梢循環中のウシ赤血球に寄生原虫が出現するか否かを調べた。6日および7日目に採材したリンパ節組織標本にはシゾント様構造物が観察され、しかも、スポロゾイト接種後9日目にはウシの末梢血中に原虫寄生赤血球が出現したことから、ウシでは明らかに原虫感染が成立したと判断されるにもかかわらず、リンパ節移植SCIDマウスの末梢血中には原虫寄生赤血球は認められなかった。以上の様に、SCIDマウスにウシの赤血球とリンパ節組織を移入する方法では、ウシで見られるスポロゾイト→シゾント→メロゾイトの原虫増殖様式を再現することができなかった。移植の技術等に問題があった可能性は否定できないが、マウス体内に何らかのシゾントステージの原虫増殖阻害要因があるか、ウシの赤血球とリンパ節組織以外にさらに何かが必要である可能性が示唆された。
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