家畜化されない野生動物の遺伝資源を保存する方法として、死体卵巣や精巣を利用する方法を本研究で希求してきた。本年度は受精卵の供給源を死体に依って、種の特異性生理を研究することを特に目的としてきた。この技術は、ウシで確立されている生物工学的技術と顕微受精技術が広範なウシ科野生動物への生殖工学の適用を可能にしている。野生動物の配偶子は、動物園での弊死体から回収されるなど限られた条件でしか入手できなかった。そこで、本研究では、動物園と協調しながら、モデルとしてウシの屠場卵巣を用いて、ウシ科動物精子の顕微受精条件を検討してきた。本年度も昨年度に引続き、ウシの卵母細胞の成熟と精子処理、精子の顕微受精を行った。特に本年は、実験で精子の受験を詳細に検討し、保存と受精能力の限界について検討した。予定には遅れたが、和歌山県畜産試験場にて技術移転を試み、移植への足がかりを得た。また、この様な人為的な操作胚は、その体外における培養条件を詳細に設定する必要があった。特に卵管培養や共培養などのより生理的に近い条件で培養しないと発生率は、著しく低下する事が示唆された。また、移植の機会を得るため、一時的に保存する必要があるが、やはり人為的操作胚は、損傷を受けやすくより適した条件で凍結保存してやる必要があった。本年度は、ウシ科希少動物における実験を開始したが、弊死したウシ科動物の成獣の死体から、供与された雄生殖組織は、やはり条件が悪く、精子の回収が困難であったり、変質精子の尾部の条件により卵母細胞への注入が困難であった。ハムスター卵母細胞中への注入は、その直径が小さく困難であり、ウサギ卵母細胞などその直径が大きい方が、実験効率がよい事が判明した。これらの実験において、主に卵母細胞の成熟と精子処理並びに顕微受精は、研究代表者の細井が担当し、共同研究者の入谷が、受精卵の検定と胚培養を担当した。
|