研究概要 |
家畜化されない野生動物の遺伝資源を保存する手段として、死体卵巣や精巣を利用する方法が考えられる。本研究では、ウシ科希少動物を対象にその方法を検討した。現在ヒトやウシなどで確立されている生殖工学技術に、顕微授精法があり,これを利用する事で精子の運動性が必要でなくなる。この為、動物園における突然死動物の精子も利用できるようになった。本研究では、そのモデルとしてウシ屠場卵巣より得られた卵を用いて、ウシ科動物精子の顕微授精条件を検討して来た。ウシ卵母細胞ならびにハムスター卵母細胞への様々な条件の精子を顕微授精した結果、-30℃で長期間保存した生殖器から回収された様子でも、ごく僅かではあるが,正常受精像が観察された。これは、この方法による胚生産の可能性を証明したと言える。突然死した死体から得られた雄生殖器は、精子の回収が困難であったり,精子自身が変質していたり問題が多かった。しかし、この様な精子を注入する為、精子の頭部のみの注入法やピエゾマイクロマニュピレーターの利用などを試み、一定の成果を得た。しかし、現実的な問題として、希少動物種の胚生産は突然死した雌個体の卵巣中の卵母細胞を効率的に利用することが必要となる。また、受精卵の移植には、胚を適期まで保存する技術も重要な課題となる。特に顕微操作により生産された胚は、体外での外的刺激に感受性が高く凍結保存も困難な場合が多い。そこで本研究では、この点も考慮に入れて検討した。胚の凍結保存にとって重要な発育時期に合わせる為、培養方法も検討した。これらの結果から、ウシ科希少動物種の配偶子利用システムは、家畜であるウシの情報が利用できる利点も加え、突然死動物の生殖器が広く利用されることが可能になれば,実用化できると考えられた。
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