国際化に対応する畜産経営を推進するためには、生まれてくる子牛の性を胎子期のできるだけ早期に診断し、合理的な繁殖管理計画を確立することにより生産コストの低減を図る必要がある。これまで、初期胚の人為的な操作による性判別が試みられているが、いずれも複雑で、凍結融解後の胚の損傷や早期胚死滅がみられ、完全な実用化の段階にはいたっていない。一方、Y染色体特異的DNAは動物において精巣決定遺伝子であることが報告され、このため体細胞の一部を採取し、PCR法によりDNAを増幅し、性判別が行われるようになった。 本研究では、家畜における超音波断層装置を利用した新しい診断技術として、妊娠早期における牛胎子の性判別を実施し、実用的な性判別診断のガイドラインを作成することを目的とした。また、超音波ガイドにより穿刺採取した牛羊水中の浮遊細胞のDNAをPCR法により増幅し、Y染色体特異的DNA配列に基づくプローブを利用して性判別の確定診断を行った。 その結果、超音波断層法による性判別については、妊娠45日以降では生殖結節が確認でき、90/117例について性判別が可能であった。性判別では生殖結節の位置が臍帯の後方にあれば雄で、後肢の後方で尾の前方にあれば雌と判定された。判定の正確率は雄胎子で93.6%(43/46)、雌胎子で90.9%(40/44)であり、また、臍から生殖結節までの距離は妊娠56日目から雌雄に差が見られ、それ以降の超音波診断で性判別が可能になることが明らかとなった。 PCR法による牛羊水中DNA解析では、35例について穿刺を行い、33例から羊水の採取が可能であった。内訳は29例が羊水、4例が尿膜水であった。採取された羊水中および尿膜水中の浮遊細胞をPCR法により増幅し、Y染色体特有プローブにより性判別を行った。その結果、31例でDNAバンドが確認され、性判別の正解は93.5%(29/31)で、2例が不正解、また2例はDNAバンドが確認されず、判定不能であった。羊水の穿刺採取後、1週間以内に5頭で流産が見られた。
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