本研究は、乳房炎の発生にとって最も重要な乳頭部と乳頭管の病態生理学的な側面を明らかにすることを目的とした。そのため乳房臓器と生体材料ついて、超音波診断を含む各種乳房炎検査を実施し、臓器についてはさらに病理組織学的および微生物学的検索を実施した。 まず乳牛の乳頭測定とともに乳質検査、細菌検査を行い、その関連を検討した。その結果、乳房炎陽性群は陰性群に比べ乳頭傾斜度と乳頭管直径の測定値が有意に大きかった。乳頭管直径の大きいものは小さいものに比べ、細菌の分離される分房が有意に多かった。 泌乳牛の正常な乳頭の超音波断層像は、乳頭壁の表皮、内膜およびフルステンベルグのロゼット部などはエコーレベルが高く、筋層はエコーレベルが低く、乳管洞乳頭部や乳頭管などはエコーフリーな像として描出された。超音波診断では、これらの正常な乳頭の他に、乳管洞乳頭部の閉塞、内膜の肥厚、膿痕、ポリ-プ、憩室、狭窄、奇形などの診断が可能であり、いずれも形態学的観察所見と一致していた。 11頭44分房からの細菌の分離状況はStaphylococcus spp.が14分房と最も多く、次いでStreptococcus spp.の13分房、Corynebacterium spp.の6分房の順であった。細菌陽性の分房は乳頭部が乳腺部よりも有意に多く、総菌数は同様か乳腺部の方が少ないかまたは陰性であった。分離菌(属)と病理組織学的病変との関連性も検討したが、感染細菌の種類による相違はみられなかった。 病理組織学的検索では、臨床型乳房炎か潜在性乳房炎かにかかわらず、多くの例に炎症像が認められた。乳腺部では、間質および腺胞腔内の炎症細胞浸潤や間質の肥厚などが多くみられ、乳頭部では、上皮下組織への炎症細胞浸潤や粘膜上皮の剥離などが多くみられ、乳頭内膜炎を併発していた。 これらの研究成果は、乳房炎の早期発見、予防、治療対策の確立に有用である。
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