ボツリヌス神経毒素(150KDa)は重鎖(100Kda)と軽鎖(50KDa)で構成され、重鎖は毒作用発現に関わるシナプス前膜の毒素受容体への結合を担い、軽鎖は亜鉛依存性蛋白分解酵素活性を持ち、シナプス小胞の前膜への融合に関与するSNAP受容体を基質とすることが明らかになっている。我々はラット脳シナプトソームに対する毒素の結合様式から、受容体は蛋白様物質と糖脂質のガングリオシドとの両者で構成されていることを予想し、毒素の性状解析を最も進めていたB型毒素に対する受容体の単離を試みた。その結果、ガングリオシドGT1b、GD1a共存下で毒素結合活性を発現する分子量58Kの糖蛋白を精製することに成功した。この58K蛋白は抗原性、部分アミノ酸配列からシナプス小胞の構成蛋白の1つであるシナプトタグミンと非常に類似した構造を持っていた。ラットには数種類のシナプトタグミンアイソフォームの存在が明らかになっている。神経組織内の分布からシナプトタグミンIとIIはそれぞれ主として中枢と末梢に異なって分布していることから、これらのリコンビナントシナプトタグミンを調製し毒素結合能を調べた結果、IIはIと比べ10倍高い親和性を持つことが判った。このことは、B型毒素に対して脳シナプトソーム膜上には高親和性と低親和性の2種類の毒素結合部位が存在することとよく一致する。シナプトタグミンIIのN末端領域を認識するモノクローナル抗体が毒素の結合を阻害した。これらの結果から、毒素はシナプス小胞のリサイクリングの系を介して細胞内に侵入することが可能であると考えられた。また軽鎖はpH依存性のチャネル形成能を示すことから、シナプス小胞内に取り込まれた毒素は還元を受けた後、軽鎖単独で小胞膜を通過し標的蛋白を分解することが可能であることが示唆された。
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