人の難治性ネフローゼ症候群に類似する病態を示すOm/N(Osbome-Mendel/NIH)系ラットの腎臓、尿について病理、生化学的解析を行い、以下の成績を得た。1.オスでは早期に選択的蛋白尿の発現が見られ、まもなく非選択的蛋白尿に移行した。メスも同質の病態を示したが発症は遅く、障害は軽度であった。2.光学顕微鏡的な糸球体変化は臨床経過とよく一致し、上皮細胞の硝子滴の沈着、空砲化といった変性から上皮細胞の剥離・脱落、係蹄とボ-マン嚢との癒着、硬化に進行した。加齢とともにこれらの変化は糸球体内で広がり、び慢性に進行した。3.免疫組織学的に蛋白尿の出現・増悪と関連する糸球体でのヘパラン硫酸の染色性低下は認められなかった。しかし、ポリエチレンイミン法によりGBMにおける陰性荷電部位が加齢性に減少し、蛋白尿を示さないSDラットのそれと比較して有意に少ないこと、GBMにおける陰性荷電部位の配列や分布に若齢から異常が認められる事、Om/Nラットでは上皮細胞表面の陰性荷電の減少・消失がある事が明らかになった。4.尿中タンパクは分子量が同じでもOm/NラットではF344と比較して等電点のより低いものが存在した。以上より、Om/Nラットの腎糸球体障害は、発症時期や形態学的特徴から本ラットに特有な腎疾患であると考えられた。Om/Nラットにおける蛋白尿発現には糸球体ポリ・アニオンの障害が、糸球体病変進行には上皮細胞の障害が関与することが示唆された。これら糸球体障害機序の解明にはさらにヘパラン硫酸、ポドカリキシン、IV型コラーゲン、上皮細胞のインテグリン等について分子病理学的解析が必要である。ヒトにOm/Nラットと同様な糸球体疾患はないが、本ラットの腎糸球体障害は発症率が100%で、発現が非常に早いこと、上皮障害・蛋白尿発現と陰性荷電障害・分節性硬化等の発現・進展メカニズムの解明や治療実験には有用な自然発症モデルと思われた。
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