研究概要 |
AllingerらのMM2分子力場に於いて、Jeffreyらのパラメータセットを用いてβ-(1,4)-D-glucan(セルロース)の孤立分子鎖について分子シミュレーションを行った。先ず、5量体分子鎖について、分子力学シュミレーションを行い、各グリコシド結合の回りの残基の空間配座の変化に伴うエネルギー表面図を描き、各グリコシド結合の回りの二つの二面角ΦとΨの可能な組み合わせを求め、可能なコンフォメーションが大きく分けて二つのグループに分けられることを示した。さらに、その一方は、二つのサブ構造を含み、その間のエネルギー障壁はわずか2kcal/molで、室温付近でも頻繁に構造が入れ替わることを示した。一方グリコシド結合の回りの分子鎖のエネルギー特性は、結合の位置には関係なく同じようなエネルギー挙動を取ることも示した。ついで、16量体の分子動量学シミュレーションを行った。シミュレーションは0.5fsの時間間隔で2nsの時間にわたって、のべ400万回Newtonの運動方程式を解き、16量体分子鎖中の各原子の空間座標の時系列変化を記録し、このデーターをもとに、CGにより分子運動のアニメーションを作製し、観察した。その結果、セルロース系分子鎖の分子運動は、分子鎖軸の回りの螺旋運動を基本としており、半剛直性を示すつつ、分子鎖全体としての協調運動をもしていることが示された。また、分子鎖中の各原子の空間座標の時系列変化から、各グリコシド結合について二面角Φ、Ψの組み合わせの出現頻度を算出し、孤立分子鎖の骨格のコンフォーメーションについて、セロバイオース型の骨格構造の出現頻度が、セルロースの結晶中での2回螺旋の分子対称を持った構造よりも高いことが示され、セルロースの分子物性が、半剛直性で、かつ、この螺旋を描く習性に基づいていることが推定された。また、セルロースの結晶中では、分子鎖のパッキングに伴い、歪みのエネルギーが蓄積されていくと考えることも示された。
|