タバコでは遺伝的にニコチン生合成能が低い突然変異株が育種されており、ニコチン生合成に関与する2つの遺伝子座NiClとNic2が同定されている。我々はnic1nic2ダブルホモ突然変異株を用いたディファレンシャル・スクリーニングによりnic1またはnic2変異をもつタバコでその遺伝子発現が抑制されている2つの遺伝子(PMTとA622)のcDNAをクローニングした。さらに、PMTはニコチン生合成経路の初発酵素プトレッシンN-メチル基転移酵素をコードすることを大腸菌の発現系を用いることにより証明した。また、A622もその機能は不明ながら発現パターンの解析よりニコチン生合成経路の酵素遺伝子である可能性が強い。 A622cDNAをセンス及びアンチセンス方向にTiプラスミド上のカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター下流にそれぞれ接続し、野生型のタバコ植物体に導入し、タバコ個体におけるA622発現量をそれぞれ増大、及び減少させることを計画している。センス遺伝子により形質転換タバコのニコチン含量が増大し、アンチセンス遺伝子により減少すれば、A622遺伝子がニコチン生合成に関与することが示唆される。平成6年度はA622cDNAをTiバイナリープラスミドに組み込んだ植物形質転換用のベクターを作製した。また、形質転換植物の解析を容易に行うために、A622タンパク質を大腸菌で大量発現させるベクターも作製した。 ニコチン生合成の酵素遺伝子の発現調節機構を解明し、調節遺伝子Nic1とNic2のクローニングに用いるため、PMTとA622のプロモーター部位を含むゲノミッククローンをタバコの片方の祖先種であるNicotiana sylvestrisのゲノミックライブラリーからそれぞれスクリーニングしている。平成6年度はPMTゲノミッククローンを数クローン単離し、解析中である。
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