マウスの着床前発生過程でのコンパクション及び胚盤胞腔形成におけるミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)の調節機構の一端を明らかにする目的で、8細胞胚及び桑実胚をMLCKの阻害剤であるML-9またはwortmanninに暴露し、胚細胞内のミオシン及びアクチンの分布について対照との比較を行った。 1.対照の胚での所見 DMSOを0.5%添加した培地で胚を12時間培養したところ、8細胞胚はコンパクションを起こして桑実胚となり、桑実胚は胚盤胞腔を形成して初期胚盤胞となった。培養終了後ミオシンの免疫組織化学的染色及びアクチンの特異的染色を胚に施したところ、ミオシンとアクチンは共存していて、胚の外側に面する細胞表層部及び細胞接触領域で、フィラメントの束と考えられる線状の分布を示した。ミオシンとアクチンの分布は、初期胚盤胞で桑実胚におけるよりもより整然としていた。 2.MLCK阻害剤に暴露された胚での所見 ML-9を25μMまたはwortmanninを15μM添加した培地で胚を12時間培養したところ8細胞胚はコンパクションを起こさず、桑実胚は脱コンパクションを起こして胚盤胞腔を形成しなかった。培養終了後ミオシンの免疫組織化学的染色及びアクチンの特異的染色を胚に施したところ、ミオシンとアクチンは、共存していたが、点状の不規則な分布を示した。wortmanninに暴露された胚では、アクチンのみが認められてミオシンの認められない細胞もあり、MLCKの可逆的阻害剤であるML-9よりも非可逆的阻害剤であるwortmanninの方がミオシン及びアクチンに対する影響が強かった。 以上の結果から、MLCKのコンパクション及び胚盤胞腔形成への関与の仕方の1つとして、ミオシン及びアクチンからなる細胞骨格の維持が考えられる。
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