肝細胞小胞体膜の薬物代謝酵素分子をモデルとし、小胞体膜における薬物代謝系microsomal monooxygenase systemを構成するcytochrome P-450(P-450)とその還元酵素のトポロジーと機能との関係を明らかにするために、1)小胞体膜を模倣したモデル膜系の作製と評価、2)小胞体膜におけるP-450各分子種およびP-450還元酵素分子の密度測定、3)組み込み分子観察のためのナノメータ領域の構造観察法の開発、4)上記の結果を総合した薬物代謝酵素分子組み込み膜系の作製と観察を行った。また、これらの研究の遂行のために、予備実験として他の蛋白を用いた密度測定法の検討を行うとともに、特定のP-450分子種について、その発現調節機構と機能発現との関係についての解析をも行った。遺伝子組み換えによってP-450分子を発現させた培養CHO細胞におけるP-450の発現の程度は制御困難であり、さらに、用いた培養細胞系の小胞体膜に予想以上の夾雑蛋白が存在していたことから、遺伝子組み換え細胞は、肝細胞小胞体膜のモデルとして好適でなかった。一方、人工脂質膜標品では組み込まれた分子の方向性を制御することができず、生体肝細胞の小胞体膜とまったく同じ膜モデルシステムをin vitroで再構築するところまではゆかなかった。しかしながら、この膜標品を用いて、膜に組み込まれた生の分子を原子間力顕微鏡観察することができた。その結果、いままで生化学・生物物理学的研究の結果から提唱されてきた多くの存在様式および会合モデルのうち、大型のミセルモデルの存在が否定的であることが明らかとなった。また、P-450IIB分子の膜露出ドメインの大きさから、P-450IIB分子が以前からのハイドロパシー解析の結果から予測されたような膜7回貫通型の膜蛋白ではなく、N末端側に膜貫通部位(アンカー構造)を持つ蛋白であることが示された。
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