1)子宮上皮におけるホルモン結合および未結合エストロジェン受容体(EsR)の核内局在 去勢した成熟マウスにエストロジェン(E2)を投与し、1時間後のEsRの局在を凍結超薄切片を用いた免疫電顕法によって検索した。E2刺激による核の微細構造およびEsRの局在の変化は認められなかった。EsRはホルモン未結合(対照マウス)、結合にかかわらず分散したクロマチンに局在し、核小体は反応陰性であった。核膜周囲の高度に凝集したクロマチンには少量のEsRが存在した。したがってホルモンと結合したEsRは核内を大きく移動することなく、近傍に存在する標的遺伝子を活性化するものと考えられる。 2)E2によるラクトフェリン(LF)の誘導 マウス子宮において、LFの誘導過程を免疫組織化学を用いて検索した。LFは1時間後に核小体に検出され、核小体の反応は6-13時間後が最も強かった。13時間以降ではLFは主として分泌経路に局在した。従来LF遺伝子は″late gene″であると考えられ、子宮上皮の分化の指標として用いられてきた。しかし核小体のLFは速やかに誘導され、上皮の増殖や分化に先立って合成されるリボゾームの形成に関与していることが示唆された。 3)E2によるプロトオンコジーンの誘導 c-fosc、-junの経時的な発現を、免疫組織化学とin situハイブリダイゼーション法を用いて検索した。 E2投与後1-2時間でc-fos蛋白とmRNAは上皮細胞に出現し、その後速やかに発現量は減少した。上皮細胞のc-jun蛋白とmRNA量はE2投与2-6時間後に顕著に減少した。間質細胞と平滑筋細胞では、E2投与によってc-junは速やかに誘導された後、徐々に減少して24時間後にはほぼ対照マウスのレベルになった。これらの結果からE2刺激によるc-fos、c-jun核内プロトオンコジーン産物の速やかな発現の変化はマウスの子宮上皮の増殖の引き金となっていると考えられる。
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