エンドセリン(ET)-1遺伝子ノックアウトマウスを作製、維持し、これと対照の野性型同腹兄弟を用いて以下の実験を行った。1.無麻酔・無拘束条件で、瞬時血圧、心拍数を2時間以上にわたり安定して記録し、得られた大量の記録データをコンピューターを用いて処理した。2.身体プレチスモ法を用いて、無麻酔の成熟及び出生直後マウスの呼吸運動を、通常大気、低酸素、高二酸化炭素の3条件で測定した。3.麻酔下に横隔神経活動を記録し、低酸素または高二酸化炭素負荷による呼吸反射を検討した。4.血圧情報のスペクトル解析による自律神経機能の評価法の適用可能性を検討した。 その結果、ET-1遺伝子を完全に欠損したホモ接合体は頭頸部の形成異常により出生直後に死亡し、ET-1がほぼ半減したヘテロ接合体は有意な高血圧を示した。ヘテロ接合体では血中酸素分圧の減少と呼吸反射の減弱も観察された。横隔神経の記録によって、呼吸反射の減弱は神経系に原因の一つが存在することが明らかになった。さらに、母親を帝王切開してとりだしたホモ接合体に気道切開を施すことによって、これを救命する方法を開発し、ホモ接合体では更に呼吸反射の減弱が重篤であることを見い出した。これらの結果から、ET-1は反射性呼吸調節に重大な関与をしていることが明らかになった。高血圧の原因に関しは、調べた限りの他のホルモン系の代償的亢進や腎機能の異常は否定的であったが、神経性の呼吸調節異常が関与していることが推測された。血圧情報のスペクトル解析によっても同様の循環・呼吸異常が示唆された。 これらの結果から、ET-1は発生、呼吸調節、循環調節に関与していることが明らかになった。前2者は予想していなかった結果であり、ET-1は多彩な役割を担う物質であるという重要な新発見であった。また、個体レベルの自律神経機能研究手法の多くが、多少の改良を加えることでマウスにも適用可能であることが明らかになった。
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