研究概要 |
1.本年度の研究目的は,脳血管に分布する顔面神経副交感神経成分のの中枢(上唾液核の大錘体神経細胞群)の機能を支配する上位中枢領域を調べることである。そのような候補として,動脈圧受容器情報を処理する循環中枢,および侵害刺激情報を処理する中脳中心灰白質の2者を考え,まず後者について,麻酔,人工呼吸,頸髄切断下のラットについて検討した. 2.中心灰白質の外側部尾側1/3は皮質血管拡張作用が最も強力で,興奮性アミノ酸NMDA微量注入(1mM,100nl)によって大脳皮質血流量は平均100%増加(n=30)し,皮質酸素消費率(皮質神経活動性を表す)は(52%,n=30)増加させることが分かった. 誘発される皮質血流量増加がもっぱら皮質神経活動性の亢進に基づくことがわかっている急性寒冷刺激の結果(n=27)と比較したところ,中心灰白質の皮質血流量増加機能の約50%が代謝性皮質血流量増加機序(皮質神経活動状態亢進に連動し作動する),残りの約50%が非代謝性機序に基づいていることがわかった. 4.副交感神経は皮質神経活動の変化なしに(非代謝性に)皮質血流量を増加させることがわかっているので,中心灰白質は副交感神経中枢を支配し,非代謝性の皮質血流量増加成分を誘発すると考えた. 5.ところが中心灰白質の皮質血流量増加は節遮断剤ペントリニウム静脈投与に完璧に抵抗性で(n=5),中枢性ムスカリン受容体阻害剤(スコポラミン)で完全に遮断された(n=5).これは副交感神経中枢の皮質血流量増加の特徴(1993年に中井らが確立)とはまさに反対であるので,副交感神経中枢は中心灰白質によっては支配されていないことがわかった. 6.一方,中心灰白質の皮質血流量と酸素代謝率増加はスコポラミン皮質局所投与(n=30),およびマイネルト核を興奮性アミノ酸AMPA微量注入によって破壊すると完全に消失した(n=48).この結果から中心灰白質の持つ皮質血流量増加機能はほぼ全てがマイネルト核コリン作動性皮質投射によって中継されていることが分かった. 7.動脈圧受容器反射にかかわる循環中枢である延髄孤束核および延髄膜外側野尾側部の抑制は皮質血流量を増加させることが,中井らによって1990-1992年に確立しているので,この血流量増加に副交感神経中枢が関わっているかを今後の研究課題としたい.
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