平成7年度は、動脈系圧受容器に由来する情報の中枢入力領域である延髄弧束核および腹側核A1領域から、視床下部バゾプレッシン(AVP)細胞への情報投射(ノルアドレナリン作動性;NA)強度に対するエストロジェン(E2)の影響を調べる実験を開始した。実験は、新鮮脳スライス標本を用いたin vitro系にておこなった。前述したと同様な方法で視索上核を切りだし、AVP細胞からの自発放電活動を同定した後、A1領域から視床下部への投射入力に関わるAVP細胞上のシナプス後機構(α1‐receptor)の薬理的賦活剤であるPhenylephrineをACSF中に種々の濃度で溶解し、それらの潅流に対するAVP細胞の反応性をE2処置群と対照群で比較した。その結果、E2処置群では、対照群に比べPhnylephrineに対する反応性が低下していることが明かとなった。現在、なおこの詳細な機構を探るための実験を続行中であるが、A1ニューロンからAVP細胞への終末シナプス中にはNA以外にNeuropeptide Y(NPY)の存在が示され、その生理学的意義が動向を集めていることから、AVP細胞の活動に対するNPYの作用およびそれに対するE2処置の影響について同様な実験系を用いて現在も調べている。今後の研究展開として、雌性と雄性動物におけるそれを比較検討する為、本研究テーマと同様の実験を雄性動物に関してもおこない、両性における特異性について研究を遂行するつもりでいる。これによって、雌性・雄性における性腺内分泌機能と自動調節系の関連の差異が明かになると思われ、中枢神経系の雌雄分化の詳細を知ることにも大きく貢献できると考えている。
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