卵巣摘出雌ラットにおいて、視床下部視索上核のバゾプレッシン(AVP)分泌細胞の浸透圧感受性は、卵巣ステロイドホルモンであるエストロジェンによって影響を受けないが、AII感受性については低下することが明かとなった。また、細胞外液浸透圧およびAII濃度を検知し、AVP細胞にその情報をつたえるAV3V機構において、AVP細胞に類似して、エストロジェン処置は細胞外液中の浸透圧変動、AII濃度変動に対する感受性を低下させた。これらの成績は、卵巣由来のE2が明かに浸透圧性あるいはAII性のAVP分泌に影響する(調節機構全体としては抑制)ことを示しており、周期的に変動する卵巣内分泌機能と中枢性水分代謝系との間の明かな連関を示唆するものと考えられた。また、in vivo実験系において、動脈血圧の昇圧・降圧に対するAVP細胞の自発放電活動の抑制・促進反応はE2処置動物において明かに低下していることが明らかとなった。 また、新鮮脳スライス標本を用いたin vitro実験系において、AVP細胞からの自発放電活動を同定し、A1領域から視床下部への投射入力に関わるAVP細胞上のシナプス後機構(α1-receptor)の薬理的賦活剤であるPhenylephrineをACSF中に種々の濃度で溶解し、それらの潅流に対するAVP細胞の反応性をE2処置群と対照群で比較した。その結果、E2処置群では、対照群に比べPhenylephrineに対する反応性が低下していることが明かとなった。 以上、卵巣ホルモンであるE2とAVP分泌調節系の連関に関する成績を総括することによって、雌性における性腺・自律調節系連関の一端を知ることが出来た。このような機構は、女性において種々の生殖周期(月経周期、妊娠・授乳など)における水分代謝の変動を説明する成績の一助となるばかりでなく、更年期における広範な自律神経失調を病因論的に理解する助けとなるものと思われる。
|