研究概要 |
プロスタグランジン(PG)の脳室内投与による抗利尿ホルモン(ADH)分泌の促進は、免疫・体温調節系と神経内分泌系の連関を示す重要な現象である。しかし、PGの脳内作用部位や作用機構、ADH分泌における生理的意義はよく分かっていない。本研究はこれらの解明を目指したものである。実験は、科研費交付申請書に記した通りに行った。 [1]脳室内へのPGの投与がADH分泌を刺激することを確認した後、脳室内投与では効果の発現しない極微量のPGE2を第三脳室腹側前部(AV3V)に投与した。PGE2は血漿ADHの増大と、血圧および心拍数の著しい上昇を惹起した。血漿浸透圧や電解質は変わらなかった。この結果は、サイトカインの作用部位であり、かつ脳内浸透圧受容器の位置するAV3Vが、ADH分泌をもたらすPGE2の作用部位の一つであることを示している。 [2]高張食塩水の静脈内インフュージョンを開始すると、血漿浸透圧、ナトリウムが時間とともに増加し、血漿ADHと血圧が上昇した。しかし、開始30分前に、PG産生阻害薬であるmeclofenamateをAV3Vに局所投与すると、高張食塩水によるADH反応はほぼ完全に阻害された。血漿浸透圧、ナトリウム等の反応は変わらなかった。このmeclofenamateの投与は等張食塩水インフュージョンの血漿ADHやその他の因子には影響しなかった。以上の結果は、浸透圧刺激の受容野であるAV3Vで内因性に作られるPGが、浸透圧的ADH分泌を媒介することを示唆している。 [3]一方、弓状核に6-hydroxydopamineを局所投与してカテコールアミン(CA)神経を破壊すると、上記の浸透圧刺激に対するADH反応は著しく増強され、この核内のCA神経はADH分泌を抑制すること、が明らかになった。従ってこの結果は、弓状核内のPGによるADH分泌はCA神経によって媒介されるものではないこと、を示唆している(European J.Endocrinology 131:658-663,1994)。
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