1.ラットの静脈内に高張NaCl溶液を注入すると、15分、30分後に、血漿浸透圧、Na^+、Cl^-の増加を伴う抗利尿ホルモン(ADH)濃度の上昇が惹起された。このADH反応は、NaCl注入の30分前にPG産生阻害薬メクロフェナメイト(MCL)を第三脳室腹側前部(AV3V)に局所微量投与すると、完全に消失した。MCLはADH以外の、血漿浸透圧、電解質、血圧等の因子の反応には影響しなかった。これらのラットにおけるMCLの投与部位は、終板脈絡器官やその近傍、視索前野正中核、内側視索前野、脳室周囲核に認められた。これらの部位にPGE2を局所投与すると、5分および15分後、血漿ADHと動脈圧が著しく増大した。血漿浸透圧や電解質の濃度は変わらなかった。薬物投与用のカニューレが以上の部位をはずれて脳室内に入った場合や、AV3Vに投与したものと同じ量を故意に脳室内に与えた場合には、MCLやPGE2投与の効果は認められなかった。従って、投与した薬物が、脳脊髄液流に乗って運ばれ、AV3V以外の領域で働いたとは考え難い。他方、MCLのAV3V内投与は、等張NaCl溶液の静脈内注入下にみられるADH、その他の因子の反応には影響しなかった。 2.ラジオイムノアッセイによるPGE2の測定法を確立し、PGE2産生におよぼす浸透圧増加の影響を調べた。ラットの静脈内に等張又は高張NaCl溶液を注入し、経時的に断頭採血した。血漿PGE2濃度は、どちらの溶液の注入によっても、有意に変化しなかった。しかし、実験前日にAV3Vに植え込んだ微小透析プローブを介して採取される間質液中のPGE2濃度は、60分間にわたる高張NaCl注入の最初の30分間に、増大する傾向を示した。 以上の結果は、AV3Vあるいはその近傍で産生されるPGは、高浸透圧状態におけるADH分泌の高進に寄与することを示唆している。
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