視束前野/前視床下部(PO/AH)の加温はさまざまな放熱反応を誘発するので、多数のサーモスタットの存在が仮定された。PO/AHから、温度上昇で発火頻度が上昇する温受容ニューロンが記録されている。私たちは、PO/AHスライスから、しきい温度以上でのみ発火する温受容ニューロンを記録し、温受容ニューロンは、センサーでなくサーモスタットとして機能しうると提案した。この研究ではPO/AH薄スライス温受容ニューロンからシナプス抑制下にパッチクランプ記録し、しきい応答のイオン機構を探った。32-40℃の範囲で温度を変化させた。cell-attached patch記録で、加温は、しきい温度以上で発火頻度を増加させた。すなわち以前の細胞外記録に類似した温受容ニューロンが記録された。全細胞電流固定記録法では、しきい以上の加温は持続的脱分極を可逆的に誘発した。脱分極がしきい電位に達すると発火が生じ、発火頻度は脱分極に伴って増加した。全細胞電位固定(-60mV)記録法では、しきい温度以上の加温は、コンダクタンス上昇を伴った持続的内向き電流を誘発した。その電流は約0mVで逆転し、逆転電位は細胞外Clイオン濃度の変化に依存しなかったので、非選択的陽イオン(カチオン)電流と考えられた。さらに、細胞外Naイオン濃度の低下で、逆転電位のシフトが確認された。cell-attached patch法では、加温で開口確率が上昇する単一チャンネル電流が記録された。そのチャンネルは、長い開口時間(1秒〜30秒)をもち、単一コンダクタンスは約10pSであった。対照的に、温度不感ニューロンでは、温感受性応答は生じなかった。発火頻度のしきい応答は、温感受性カチオンチャンネルのしきい応答に起因すると結論される。
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