最近われわれは酸素感受性蛍光色素を固定した薄膜酸素センサーを開発し、微小血管床における酸素分布を二次元的に可視化することに成功した。これはセンサー薄膜と腸間膜血管とを極めて近接させ、透過光により微小血管像を、また落射蛍光により微小血管周囲の酸素分布を、ビデオ顕微鏡的に交互に観測・記録するものである。さて組織末梢では細動・静脈は反対方向に並走して対向流(counter current)系をなすが、本研究の目的はこのような対向流系の存在が組織への酸素供給にいかなる作用を及ぼすかを、酸素分布可視化法を応用して評価することである。実験対象にはラット腸間膜を用いた。 室内大気の自発吸入下で、毛細血管のみならず細動脈周囲にも酸素濃度勾配が明瞭に認められた。また、塩化カリウムの急速注入で循環停止させた後の酸素分圧分布の時間的変化から、腸間膜組織中の酸素拡散係数と酸素消費率を評価することも可能であった。 この結果を基礎として、人工呼吸下にラットの吸入気を空気吸入⇒10%酸素吸入⇒空気再吸入というプロトコルで変化させてhypoxic hypoxiaを負荷し、微小血管床の酸素分圧分布の変動を比較検討した。10%酸素吸入後には局所血流速度は一過性に低下するが、全身循環パラメータ(平均動脈圧、中心静脈圧)には有意な差は認められなかった。この際、対向流細動静脈系の周囲においても孤立した単一微小血管周囲においても、空気再吸入後の微小血管周囲の酸素分圧はコントロール空気吸入時より有意に上昇するが、対向流細動静脈系周囲の方が酸素分圧分布の勾配は急であることが認められた。これらの結果から局所的なmetaboliteの蓄積、reactive hyperemiaは微視的な酸素輸送過程を促進していると考えられた。
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