運動時の循環調節には中枢からの調節と末梢の感覚受容器からの反射性入力が関係するが、両者の責任的な役割は明らかとはなっていない。本研究では、遠心性交感神経活動を針電極を用いてヒト覚醒下の末梢神経幹から直接記録し、運動時の循環調節に対する両者の役割を明らかにしようとした。 1)等尺性筋収縮の際には筋交感神経活動は運動開始に遅れて上昇し、運動後阻血時には高い活動が持続した。これは活動筋からの反射による亢進と考えられる。この反応性は活動筋群で異なることが確かめられた。運動中枢からの下降性神経活動が最大となる随意最大努力運動の場合も筋交感神経活動は運動開始に遅れ、一定張力発揮の場合と同様の反応であった。 2)数分間では筋交感神経活動が高まらない軽負荷(最大酸素摂取量40%)運動を30分持続し、中枢および末梢入力に対する運動時間の影響を検討した。運動開始20分以後筋交感神経活動が高まった。しかし、中枢指令の指標となる筋放電には変化がみられなかった。同時に測定した鼓膜温が筋交感神経活動に先行して上昇したことから、体温上昇にともなう内部環境の変化が筋交感神経活動亢進の原因の一つと考えられる。 3)段階的な負荷増加運動では、心電図R-R間隔変動の周波数解析から推定した心交感神経と筋交感神経活動がともに運動強度に比例して高まった。したがって、運動時の心拍数上昇と骨格筋血管を支配する交感神経活動の増加の一部には共通の入力が関係する可能性が明らかとなった。 本研究から、運動時の循環調節に対して中枢より末梢入力が大きい役割を果たす可能性が示唆され、さらにこの入力は、運動強度、活動筋群、運動時間で異なることが明らかとなった。
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