身体皮膚への温熱刺激は、視床下部の体温調節中枢に入力・統合され、血管運動中枢を経由して反射性に皮膚血管の収縮、または拡張を引き起こすことが知られている。しかし、人の手指のように動静脈吻合(AVA)血管が存在する部位の皮膚血流調節は、他部位の皮膚血流とは異なることが知られている。本研究では、腕部、手部の局所加温・冷却と足部温浴の両加温法を組合せた上、レーザー・ドップラー血流計(LDF)による指皮膚血流量測定と、実態顕微鏡ビデオ装置による左手薬指の爪床血管動態の撮影と同時に行い、末梢血管調節の機序解明を目的とした。被験者は健康な成人女子5名と成人男性1名の計6名とし、このうち爪床血管動態が鮮明に観察できる被験者2名を選抜し、実験をおこなった。室温23.7〜25.5℃の部屋で、座位安静の被験者の手部と腕部を自家製の水循環温度刺激モジュール上に置き、水温1〜38℃の範囲で変化させ局所加温または冷却した。また恒温水槽内に足部を入れ、水温37〜40℃の範囲で足部加温を行った。その結果、以下のことが明らかとなった。1.足部温40℃のとき、モジュール水温を40℃から1℃まで低下させても、指皮膚血流量の減少は全く観察されなかった。2.足部温37℃のとき、モジュール水温を37℃から3℃まで低下させると、LDFで測定された指皮膚血流量は180mvから100mvに減少した。3.その後モジュール水温を再び37℃に戻すと、指皮膚血流量は回復した。4.さらに、指皮膚血流量の充分な回復の後、足部温を37℃から38℃へ1℃上昇したにもかかわらず、指皮膚血流量は平均約40mv低下した。以上の結果から、手指の皮膚血流量は局所加温効果と中枢を介する反射性効果のバランスにより調節されていることが示唆された。さらに、足部加温による指皮膚血流量の減少は、指のAVA血管拡張により毛細血管血流量が減少した。いわゆるSTEAL EFFECTを示したものと推察された。
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