幼若モルモットの全脳灌流をMuhlethalerの方法に従って行なった。モルモットの脊髄動脈へのカニューレ挿入およびその他の動脈の結紮等は実体顕微鏡下で行なったが非常に細かい手作業であったので標本を作成するのに2-3時間を必要とした。また、一度低温(10度C)にした脳の温度を37度近傍に近づけるのに3時間を要した。その途中で脳浮腫が頻繁におき、正常温に回復させるのに種々の問題があることがわかった。 実験は必ずしも成功したとは言い難いが、萌芽的な研究であることから考えると今後改良すべき点を明らかにすることができた点では大きな成果であった。 また、研究方法とは直接関係ないが、思わぬ問題点があることが解かった。本標本は当然のことながら高次機能を営んでいる大脳を含んでいる。脳を麻酔薬を用いずに灌流することは、脳神経細胞はいわゆる"覚醒下にあること"になり、このような非麻酔下の状態で脳は痛みを感じているのか否かという倫理上の問題がある。このことに関して標本を開発したMuhlethalerのグループでは真剣に議論されており、今後この標本を用いるときは灌流液中に麻酔薬をいれるか、あるいは大脳皮質を除去しなければならない可能性がある。 脳研究の重要性から考えて、全脳灌流標本の開発は今後精力的に行なわなければならない重要なプロジェクトである。
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